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監督 | イ・ウォンテ |
評価 | 4.12 |
解説
『新感染 ファイナル・エクスプレス』『無双の鉄拳』などのマ・ドンソクが主演を務めたバイオレンスアクション。何者かに襲撃され重傷を負ったヤクザの極悪組長が、無差別連続殺人事件を追う暴力刑事と協力して犯人を追い詰めていくさまを描く。監督・脚本はイ・ウォンテが務め、『ノーザン・リミット・ライン 南北海戦』などのキム・ムヨル、『犯罪都市』でマ・ドンソクと共演したキム・ソンギュらが出演する。
あらすじ
ある夜、凶悪なヤクザの組長チャン・ドンス(マ・ドンソク)は何者かに襲撃され、何とか一命を取り留めた彼は部下を使って犯人捜しに乗り出す。一方、警察の問題児チョン刑事は事件が無差別連続殺人鬼によるものと確信し、犯人逮捕のためドンスに協力を持ちかける。当初は反発し合いながらも、やがて二人は手を組み犯人を追い詰めていく。
監督 | 中島哲也 |
評価 | 2.64 |
解説
第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生の小説「果てしなき渇き」を、『告白』などの中島哲也が実写化したサスペンスミステリー。謎の失踪(しっそう)を遂げた娘の行方を追う元刑事の父親が、いつしか思いも寄らなかった事態に引きずり込まれていく姿を活写する。名優・役所広司を筆頭に、『悪人』などの妻夫木聡、『ゆれる』などのオダギリジョーら、実力派が大挙して出演。中島監督ならではの鮮烈なタッチに加え、ヒロインに抜てきされた新人・小松菜奈の存在感にも注目。
あらすじ
品行方正だった娘・加奈子(小松菜奈)が部屋に何もかもを残したまま姿を消したと元妻から聞かされ、その行方を追い掛けることにした元刑事で父親の藤島昭和(役所広司)。自身の性格や言動で家族をバラバラにした彼は、そうした過去には目もくれずに自分が思い描く家族像を取り戻そうと躍起になって娘の足取りを調べていく。交友関係や行動を丹念にたどるに従って浮き上がる、加奈子の知られざる素顔に驚きを覚える藤島。やがて、ある手掛かりをつかむが、それと同時に思わぬ事件に直面することになる。
映画レポート
中島哲也は女優を輝かせる監督だ。「下妻物語」が深田恭子、「嫌われ松子の一生」が中谷美紀、「告白」が松たか子の映画だとしたら、本作は小松菜奈の映画だろう。彼女の魔術的な可愛さが「映画の推進力」となって、観ているぼくらは2時間のグロ話につき合うはめになるのだ。彼女が魅力的でなかったとしたら、説得力は皆無だったろう。そういう意味では、小松の起用で映画は80%成功している。
原作は「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生のベストセラー・ミステリー小説「果てしなき渇き」。元刑事で今は警備員をしている主人公・藤島昭和(役所広司)が、別れた妻から行方不明になった娘、加奈子(小松菜奈)の捜索を依頼されるという話だ。この男、ギラギラした野獣のようで、タバコをスパスパ喫い、よくギトギトと汗をかく。その新陳代謝に比例するかのごとく次から次へと事件に巻き込まれ、その暴力性を加速させて映画は凶暴になっていく。おびただしい血しぶきが飛び出るのだが、完全に野獣になった主人公は無敵なのだ、もう漫画のように。おそらく来年の演技賞を総なめにしそうな役所の怪演にニンマリしてしまう。目を背けたくなる残虐シーンにはきまって唐突に劇画調アニメが挿入され、暴力性を若干弱めている。
残り20%はストーリー性のカタルシスが担うべきところなのだが、お世辞にも本作は「後味が良い」とはいえない。肝心の娘探しのストーリーが尻切れトンボのようになっていて、見せるべき帰結が弱く、どうも釈然としないのだ。
だが、日本映画の現在を見渡したら、撮影(阿藤正一)や編集(小池義幸)は最高水準の技術といえる。この仕事がもたらすリズムはすごくて、「ただものじゃない何か」を観た充足感で満たしてくれる。それだけに、この難しい企画にゴーサインを出した映画会社には、素直に拍手を送りたいのだ。(佐藤睦雄)
監督 | アルフォンソ・キュアロン |
評価 | 3.66 |
解説
『しあわせの隠れ場所』などのサンドラ・ブロックと『ファミリー・ツリー』などのジョージ・クルーニーという、オスカー俳優が共演を果たしたSFサスペンス。事故によって宇宙空間に放り出され、スペースシャトルも大破してしまった宇宙飛行士と科学者が決死のサバイバルを繰り広げる。監督を務めるのは、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『トゥモロー・ワールド』などの鬼才アルフォンソ・キュアロン。極限状況下に置かれた者たちのドラマはもとより、リアルな宇宙空間や事故描写を創造したVFXも必見。
あらすじ
地表から600キロメートルも離れた宇宙で、ミッションを遂行していたメディカルエンジニアのライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)。すると、スペースシャトルが大破するという想定外の事故が発生し、二人は一本のロープでつながれたまま漆黒の無重力空間へと放り出される。地球に戻る交通手段であったスペースシャトルを失い、残された酸素も2時間分しかない絶望的な状況で、彼らは懸命に生還する方法を探っていく。
映画レポート
暗い部屋からもっと暗い次の間を覗くと、次の間が深く見える。闇が深く見えるだけでなく、奥行も深く感じられるのだ。子供のころ、私はそれが不思議でならなかった。
アルフォンソ・キュアロンも、似たような体験をしたのではないか。「ゼロ・グラビティ」を見て、私は思った。冒頭の長まわしが、闇のなかから別の闇に見入っている彼の視線を思わせる。もともと彼には「見入る」癖がある。傑作「トゥモロー・ワールド」で廃墟を凝視してみせた場面などはその好例だ。
「ゼロ・グラビティ」の設定は、みなさんご存じだろう。作業中の宇宙飛行士(サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニー)が、地球から600キロ以上離れた空間を漂流する。重力はない。助けは来ない。声は届かない。
キュアロンは、このシンプルな設定で90分間、観客を宙吊りにする。発想の基本は「活動大写真」だ。一難去ってまた一難。序盤の快活な雰囲気は、いつしか底知れぬ悪夢へと変貌していく。ただし、この活動大写真はゲーム的ではない。「スター・トレック」に白ける私が身を乗り出したのには理由がある。
ひとつは、サンドラ・ブロックの頑健な肉体に複雑なニュアンスを帯びさせたことだ。ブロックは、腰も太腿も二の腕もたくましい。その肉体が、浮遊と漂流をつづけるうち、寂寥と絶望を滲ませていく。宇宙空間での孤立はそこまで深い。その心細さは、われわれ観客にも伝染する。漂流を体感するだけでなく、ブロックの生理まで体感してしまうのだ。もし彼女の遭難した場所が大海原や高山だったら、ここまで深い寂寥感を作り出すことはできなかったのではないか。青い光を放つ地球を背景にした宇宙空間は、3Dの大画面と文句なしに相性がよい。(芝山幹郎)
監督 | ジャウマ・コレット=セラ |
評価 | 3.52 |
解説
『アンノウン』『フライト・ゲーム』『ラン・オールナイト』のジャウマ・コレット=セラ監督とリーアム・ニーソンが再び組んだ緊迫のサスペンス。リストラされた主人公が、通勤電車の中で困難なミッションに挑む。『マイレージ、マイライフ』などのヴェラ・ファーミガ、『ZIPPER/ジッパー エリートが堕ちた罠』などのパトリック・ウィルソン、ドラマシリーズ「ブレイキング・バッド」などのジョナサン・バンクスらが共演する。
あらすじ
保険会社に勤めて10年がたつ60歳のマイケル(リーアム・ニーソン)は突然解雇され、今後のローン返済や息子の学費のことが頭をよぎる。いつもの電車で帰宅途中の彼の前に面識のない女性が座り、三つのヒントを頼りに乗客の中から大切な荷物を持った人物を捜し出せば、10万ドルを支払うと持ち掛けてくる。
映画レポート
リーアム・ニーソン&ジャウム・コレット=セラ監督は、もはや日本全国のジャンル映画ファンの絶大な信頼を獲得している黄金コンビと言っていいだろう。2011年の「アンノウン」から始まった両者の蜜月は7年目に突入し、今回で4作目。話につながりはないが、高度1万メートル上空の旅客機を舞台にした「フライト・ゲーム」に続く“乗り物ミステリー”第2弾というべき企画である。
保険の営業マンとして地道に住宅ローンと息子の教育費を支払ってきた主人公マイケルが、ある日突然、会社からリストラを宣告される。失意のどん底に突き落とされたまま列車で帰路に着いた彼が、その車内で謎の美女から理不尽な取引を持ちかけられ、人質にされた妻子を救うために奔走するという物語だ。
ヒッチコックの「バルカン超特急」から、先頃リメイクされたアガサ・クリスティー原作の「オリエント急行殺人事件」まで、過去の列車ミステリーの多くは寝台やレストランを備えた豪華特急列車での事件を描いてきたが、本作はニューヨーク発郊外行きのごく普通の通勤列車が舞台となる。10年間規則正しく同じ時刻の列車を利用してきたマイケルには、何人もの顔見知りがいて、車掌とも気さくに挨拶を交わす仲。その見慣れた日常が、脅迫、監視、殺人によって危うい非日常に変貌していくストーリー展開から目が離せない。車両間を駆けずり回り、時に大乱闘を繰り広げ、一度は車外に投げ出されながらも必死に食らいつく主人公の苦闘を、ニーソンが孤立無援の焦燥や悲哀とともに体現する。
元警官で洞察力は鋭いが、それ以外の特殊スキルを持たないマイケルにとって、帰宅ラッシュ時の車内で性別さえ不明の“見知らぬ乗客”を特定するミッションは、砂漠でひと粒のダイヤを探すようなもの。しかし列車が進むにつれて次々と乗客が降車し、“候補者”が絞り込まれていく脚本がうまい。また、多様な世代や身分の人々が同一空間を共有する乗り物ミステリーの特性を生かし、事情を一切知らない他の乗客たちが事件に巻き込まれていく様もスリルを加速させる。
そして列車そのものも制御不能の加速を開始する。このジャンルにおいては、乗り物が無事終点にたどり着くとは限らない。怒濤のパニック・アクションのカタルシスをも堪能させるこの列車ミステリーは、主人公の日常を巧みなアイデアで表現したオープニングから粋なエンディングまで、あらゆる手並みが鮮やか。ますますコラボレーションに磨きのかかった黄金コンビは、今まさに絶頂期にある。(高橋諭治)
監督 | ウィリアム・フリードキン |
評価 | 4.01 |
解説
12才の少女リーガンに取り付いた悪魔パズズと二人の神父の戦いを描いたウィリアム・ピーター・ブラッティ(オスカーを受賞した脚色も担当)の同名小説を映画化したセンセーショナルな恐怖大作で一大オカルト・ブームを巻き起こした。
映画レポート
1974年7月に公開された「エクソシスト」は前評判通りの大ヒットとなり、年間興行成績の首位を獲得。当時の日本はベストセラー「ノストラダムスの大予言」「日本沈没」の映像化によるパニック映画ブーム、ユリ・ゲラーのスプーン曲げがきっかけの超能力ブーム、中岡俊哉著「恐怖の心霊写真集」やTV「あなたの知らない世界」から始まる心霊ブームがほぼ同時に発生。そこに、オイルショックによる高度成長の終焉と、トイレットペーパー騒動や狂乱物価、さらには年300回を超える光化学スモッグ発生に見られる公害の影響が重なる。第二次ベビーブームの真っ只中、それらが引き起こす深刻な世相不安が「エクソシスト」のヒットと一大オカルトブームを大きく牽引したと言えよう。
本作は米公開時から「衝撃の実話」「関係者が次々と死亡」「原因不明の火災でセットが焼失」「観客に失神者続出」というショッキングな報道がなされた。少女リーガンに取り憑いた悪魔パズズと、メリン神父とカラス神父の命がけの悪魔祓いを描いた本作は、ドキュメンタリー出身のフリードキン監督でなければ出せない迫力に満ちている。実際、リアルを追求するために、監督は際どい手法を取っている。
カラス神父役のジェイソン・ミラーから驚愕の表情を引き出すために突然空砲を発砲する、リーガンの緑の吐瀉物を予告なしに顔面にかける(豆のポタージュとのこと)、ダイアー神父演じるウィリアム・オマリーに本番直前にビンタをして、悲嘆にくれるシーンを撮影、ベットで激しく揺さぶられるシーンではリンダ・ブレアは腰と背中に深いダメージを負った、リンダは有名な「スパイダー・ウォーク」でも背中を痛めたが、このシーンはカットされた(ディレクターズ・カット版で復活)、対決シーンでは息が白く見えるようにセットをマイナス40度に冷却、霜がおりるなか俳優には通常の衣装で演技させた、等々。
スタッフ・キャストの奮闘もあり、過激なショック描写と信仰というテーマで「エクソシスト」は73年賞レースの目玉に。ゴールデングローブでは7部門にノミネートされ、作品、監督、脚本、助演(リンダ・ブレア)の4部門を独占。本命オスカーでは「スティング」とともに作品、監督など最多主要10部門にノミネート(受賞は脚色賞と音響賞)。作品賞にノミネートされたホラー映画は「エクソシスト」が初、それ以降は2017年の「ゲット・アウト」まで現れなかった。
イタリア最大のエクソシストで知られる神父がお墨付きを与えるほど、この作品は「悪魔祓い」を真実として取り上げた画期的な映画だった。作中、精神科医の立場で科学的な解決を試みるカラス神父は、次々に襲いかかる超常現象を前に苦悩する。善と悪、神と悪魔は表裏一体であることを知ったカラスは、最後に信仰を取り戻し、命がけの決断で少女を救う。その結末は驚きと共に深い感動を呼び、半世紀経った今も色あせない魅力を放つ。オカルト映画、キワモノという枕詞はあるものの、高い完成度を誇る人間ドラマとして、この機会にぜひ鑑賞して頂きたい。(本田敬)
監督 | 清水康彦 |
評価 | 2.52 |
解説
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督が手掛けたSFサスペンス『CUBE』の日本版リメイク。立方体の部屋がつながる空間に閉じ込められた男女6人が、決死の脱出に挑む。メガホンを取るのは『でぃすたんす』などの清水康彦。『花束みたいな恋をした』などの菅田将暉、『オケ老人!』などの杏、『さんかく窓の外側は夜』などの岡田将生のほか、田代輝、斎藤工、吉田鋼太郎らが出演する。
あらすじ
見知らぬ立方体の中で目を覚ましたエンジニアの後藤裕一(菅田将暉)、団体職員の甲斐麻子(杏)、フリーターの越智真司(岡田将生)、中学生の宇野千陽(田代輝)、整備士の井手寛(斎藤工)、会社役員の安東和正(吉田鋼太郎)。それぞれに接点はなく、なぜここにいるのかも分からない彼らは、脱出しようと四方につながるほかの立方体空間を移動していく。随所に仕掛けられた熱感知式レーザー、ワイヤースライサー、火炎噴射といった殺人的トラップをクリアし、暗号を解き続ける。
監督 | ヴィンチェンゾ・ナタリ |
評価 | 3.79 |
解説
奇抜なストーリー、斬新なビジュアル・センスで話題となったカナダ産異色サスペンス。謎の立方体(=CUBE)に閉じこめられた男女6人の脱出劇を、緊迫感漲る演出で描く。ゲーム感覚の謎めいた物語やシュールな美術・SFX等を駆使し、人間の闇部を抉った秀作。ある日突然、密室に閉じこめられた6人の男女。それは正方形の巨大な立方体だった。いったい何のために作られたものなのか、なぜ自分たちが閉じこめられたのかは誰も知らない。脱出方法は6つあるハッチのいずれかを選び、同じ立方体でつながっている隣に移動しながら出口を探す以外ないが、いくつかの部屋には殺人トラップが仕掛けられていた。そんな中、やがて彼らは安全な部屋を示す“暗号”に気づくが・・・。
監督 | ナ・ホンジン |
評価 | 3.99 |
解説
10か月に21人を殺害した疑いで逮捕された、韓国で“殺人機械”と言われた連続殺人鬼ユ・ヨンチョルの事件をベースにした衝撃のクライム・サスペンス。狂気のシリアルキラーをたった一人で追う元刑事の追走劇が、緊迫感あふれるダイナミックかつハイスピードな展開で描かれる。長編初監督の新鋭ナ・ホンジンのもと、連続殺人鬼役のハ・ジョンウと、元刑事役のキム・ユンソクが圧倒的な演技を披露。事件を追う過程で垣間見える人間の心の闇に戦慄(せんりつ)する。
あらすじ
デリヘルを経営する元刑事ジュンホ(キム・ユンソク)のところから女たちが相次いで失踪(しっそう)して、ときを同じくして街では連続猟奇殺人事件が発生する。ジュンホは女たちが残した携帯電話の番号から客の一人ヨンミン(ハ・ジョンウ)にたどり着く。ヨンミンはあっけなく逮捕されて自供するが、証拠不十分で再び街に放たれてしまい……。
映画レポート
どうやら「殺人の追憶」に匹敵する凄い映画らしい、との前評判を見聞きした人は少なくないだろう。あのポン・ジュノの傑作が引き合いに出される理由は、実際に起こった猟奇殺人事件を下敷きにしている点が共通しているから。しかしどこまでが事実で創作なのかなどと邪推せず、純粋にフィクションとしての観賞をお薦めしたい。連続殺人鬼と追跡者の攻防に警察が絡む一夜余りの出来事を描いたこの映画には、泥臭い活劇とスリラーの快楽が驚くべき濃度で息づいているのだ。
まずは異様なストーリー展開に引きずり込まれずにいられない。悪役の若い殺人鬼は、意外にも前半で呆気なく警察に拘束される。ところが事件はさっぱり解決しない。囚われの身のヒロインの居場所が特定できず、元刑事の主人公はとてつもなく“効率の悪い”捜索を強いられてしまう。そう、この映画はまったく直線的ではない。いかれた方位磁針を頼りに、真っ暗な迷路を突き進むかのような異色“チェイス”映画なのだ。
それにしても、これは女性たちがことごとく酷い目に遭う映画である。事件の被害者はもちろん、捜査陣の紅一点である女刑事もさんざんな運命を強いられ、彼女の頑張りは最後まで報われない。さらに筆者が最もゾクリとしたのは、被害者の女性が主人公の携帯の留守電に吹き込む“遺言”である。「あんたが悪いのよ!」という恨み言よりもはるかに切なく、男の罪悪感を串刺しにするそのセリフに愕然。体も痛いが、心も痛い。この新人監督、ただのサディストではない。並外れた才能と感性の持ち主だ。(高橋諭治)
監督 | キャリー・ジョージ・フクナガ |
評価 | 4.04 |
解説
イギリスの敏腕諜報(ちょうほう)員ジェームズ・ボンドの活躍を描く人気シリーズの第25弾。諜報(ちょうほう)の世界から離れていたボンドが、再び過酷なミッションに挑む。メガホンを取るのはドラマ「TRUE DETECTIVE」シリーズなどのキャリー・フクナガ。ダニエル・クレイグ、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリスらおなじみの面々が出演し、新たに『ボヘミアン・ラプソディ』などのラミ・マレックらが参加する。
あらすじ
諜報(ちょうほう)員の仕事から離れて、リタイア後の生活の場をジャマイカに移した007ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、平穏な毎日を過ごしていた。ある日、旧友のCIAエージェント、フェリックス・ライターが訪ねてくる。彼から誘拐された科学者の救出を頼まれたボンドは、そのミッションを引き受ける。
監督 | マーク・ペリントン |
評価 | 2.86 |
解説
ジョン・クラインはワシントン・ポストの敏腕記者。ある日、妻メアリーと新居候補の物件を見た帰り道、車を運転していたメアリーが突然悲鳴を上げハンドルを切って急停車した。病院で目を覚ましたメアリーはジョンに不可解な問いをし、脅え、そして間もなくこの世を去った。2年後。ある晩ジョンは、仕事でワシントンDCからリッチモンドへ向かっていた。しかし1時間後、気がつくと、600キロも離れたウェスト・バージニア州ポイントプレザントにいた。やがて、彼はこの町で起きている不可解な事件と妻の言動に繋がりがあることを知るのだったが…。
監督 | F・ゲイリー・グレイ |
評価 | 3.48 |
解説
『300 <スリーハンドレッド>』のジェラルド・バトラーと、『Ray/レイ』のジェイミー・フォックスが共演を果たした驚がくのサスペンス。妻子を惨殺され、司法にも裏切られた男が周到な計画に基づき、自ら復讐(ふくしゅう)に手を染める姿を徹底的に映し出す。『ブルドッグ』のF・ゲイリー・グレイが監督を務め、それぞれ自分が信じる正義に基づき火花を散らす二人の男の壮絶なバトルを描く。司法の穴を突く見事なストーリーと、予測不能な展開に熱中させられる。
あらすじ
クライド(ジェラルド・バトラー)は自宅に押し入った強盗に妻と娘を殺害され、自身も刺されて重傷を負う。犯人二人は逮捕されたものの、フィラデルフィア随一の有罪率を誇る敏腕検事ニック(ジェイミー・フォックス)は確実に有罪にするため司法取引を持ちかけ、結果主犯格の男が数年の禁固刑で済んでしまう。
監督 | トニー・スコット |
評価 | 3.12 |
解説
1974年の『サブウェイ・パニック』を『デジャヴ』などのイギリスの名匠、トニー・スコット監督がリメイクしたサスペンス。突如何者かにハイジャックされたニューヨークの地下鉄を舞台に、犯人グループとの身代金交渉を臨場感たっぷりと見せる。頭の切れる武装グループのリーダーを演じるジョン・トラヴォルタと、彼との交渉役を務める地下鉄職員役のデンゼル・ワシントンの頭脳戦も必見! 逃げ場のない地下鉄内での先の読めない展開に目が離せない。
あらすじ
午後2時、ニューヨーク地下鉄運行指令室で働くガーバー(デンゼル・ワシントン)は、ペラム発1時23分の電車が緊急停止したことに気付く。しかも、その電車はなぜか1両だけほかの車両と切り離されて停止していた。胸騒ぎを覚えたガーバーが無線連絡すると、ライダー(ジョン・トラヴォルタ)と名乗る男が人質19名の命と引き換えに、残り59分で1,000万ドルを市長に用意させるよう要求してくる。
映画レポート
「突破口」「笑う警官/マシンガン・パニック」と並んで大好きなウォルター・マッソー主演作「サブウェイ・パニック」(74)のリメイク版。監督トニー・スコット、脚本家ヘルゲランドという“当たりハズレの大きい”ご両人が、とぼけた味がするあのユーモラスなスリラーをどう料理するのか期待して見たが、出来は水準以上。骨太でスタイリッシュなスリラーに仕上がっていた。特に、スコット監督の真骨頂でもあるスピーディな地下鉄でのアクション描写は前作を上回る。
最大のスリルは、ニューヨークの地下鉄の(600ボルトの電流が流れる)“第3のレール”から火花が散るように、無線で会話を交わす運行指令室の主人公ワシントンとハイジャック犯のリーダーのトラボルタによる丁々発止の応酬だ。トラボルタは「生き方がうまくてもヘタでも行き先は墓場さ」などと名ゼリフを吐き、カラフルな悪役を愉しんでいる。一方のワシントンは必死かつ真剣な表情をして、コントラストを形づくっている。
物語的に一対一の対決にフォーカスするあまり、“第3の男”が魅力的に映らないことが残念だ。前作では色の名前で呼び合ったりして魅力的だった犯人グループも、今回は顔も名前も記憶できないほど存在感がないのだ。
前作の名を一躍高めた胸のすくエンディング(マッソーの表情が忘れられない)や、デビッド・シャイアのジャズィな主題曲がそぎ落とされているのが何とも惜しいと思う。(サトウムツオ)
監督 | ギャスパー・ノエ |
評価 | 3.12 |
解説
ある男を探してゲイクラブへ押し入る2人組。彼らは男を見つけ出すと凄惨な暴力を加える。発端はあるパーティの夜。マルキュスは会場に残り婚約者アレックスを一人で帰してしまう。その直後、アレックスはレイプに遭い、激しい暴行を受けてしまうのだった。自責の念に駆られるマルキュス。彼は友人でアレックスの元恋人のピエールとともに犯人探しを開始する。やがて、女装ゲイ、ヌネスを探し出した2人は、ヌネスからついにテニアという男の名を聞き出すのだった…。
映画レポート
冒頭の凄惨な暴力、9分におよぶ壮絶なレイプで、「賛否両論」のこの作品。しかし、むしろ、これは「好き嫌い」がはっきり別れる映画。レイプとその復讐が招く悲劇は、その題材や凄惨な描写はもちろんのこと、復讐に駆られた男の怒りと混乱を示すようにうねるカメラワークすら、苦手な人には目まいを起こさせるらしい。
ただ、逆回転するエンドクレジットから始まる徹底ぶりで、時間を逆行させるスタイルだけは、誰もが認めるはず。ストレートに時間を逆行させる、そのパワーに圧倒される快感! 時間を遡るほどに増す穏やかさが噛みしめさせる、幸福を取り戻せない切なさ! そう、このスタイルは、たんに目先を変える手段ではない。そこには、暴力の虚しさを暴力で突きつけるハートがあるのだ。
もともとバンサン&モニカ主演が大前提なだけに、ノエの生臭さは薄いものの、映画は広く観客に観られてナンボ。ノエのカルトな香りとこのスターカップルのオーラが溶けあった世界は、カルト映画とスター映画のいいとこ取りなのだ。オープニングから、その魅力に巻き込まれたら、きっとすべてが好きになる。ツッコミたいのは、裸よりも扇情的なドレスで美女が夜道をひとり歩きするってことだけ?!(杉谷伸子)
監督 | グスタフ・モーラー |
評価 | 3.58 |
解説
主人公が電話の声と音を通して誘拐事件の解決を図ろうとする異色サスペンス。本作が長編初監督作となるグスタフ・モーラーが、緊急ダイヤルの通話を頼りに誘拐事件と向き合うオペレーターの奮闘を描く。ドラマシリーズ「北欧サスペンス「凍てつく楽園」」などのヤコブ・セーダーグレンが主人公を演じ、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィーらが共演している。
あらすじ
警察官のアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)はある事件を機に現場を離れ、緊急通報司令室のオペレーターとして勤務していた。交通事故の緊急搬送手配などをこなす毎日を送っていたある日、誘拐されている最中の女性から通報を受ける。
映画レポート
言うまでもなく映画とは、映像と音によって成り立つ表現形態である。しかし俳優の演技や視覚効果といった直接スクリーンに映し出されるものに比べると、その場の状況や登場人物の感情をサポートする役目にとどまりがちな音について語られる機会は格段に少ない。デンマークの新人監督グスタフ・モーラーは、そんな私たちの目には見えない“音”の比重を格段に高め、それ自体が主役と言っても過言ではない斬新なクライム・スリラーを完成させた。
主人公の警官アスガーは、日本で言うところの110番、すなわち緊急通報室のオペレーターだ。ある日、彼が対応した電話の主は、今まさに夫に拉致されて車でどこかへ連れ去られているイーベンという女性。事態が切迫していることを察知したアスガーは、通報者の身元や車の位置情報を確認し、他の部署と連携して事件解決を図るが、思いがけない深刻な事態に直面していく。
舞台は全編にわたって緊急通報のオペレーター・ルームに限定され、カメラが捉える主要登場人物は主人公のアスガーだけ。ゆえに私たち観客はアスガー同様、イーベンが巻き込まれた事件の全情報を電話の向こう側から聞こえてくる音から得るしかない。震えを帯びた通報者の声、車の走行音やワイパーの音、そして時折割り込んでくる犯人らしき男の怒声。当初はよくあるDV絡みの単純な事件のように思えるストーリーを、ムーラー監督は“視覚的な音”を巧妙に駆使して、予想もつかない方向へと展開させていく。
例えば、アスガーと自宅にぽつんと取り残されたイーベンの幼い娘との対話。真っ暗闇の中で受話器を掴み、一生懸命アスガーの質問に答えるその少女は、いかなる危うい状況に陥っているのか。はたして、その家で何が起こったのか。そうした決して画面には映らない状況を、生々しい戦慄とともに観る者に想像させる本作は、ワン・シチュエーション映画でありながら多様なシーンチェンジを繰り返し、確実にサスペンスのテンションを高めていく。やがて声優たちの演技も含め、緻密に設計された音が生み出すささやかなスペクタクルは、アスガーと私たちが囚われた先入観を易々とひっくり返し、人間の不可解さ、世界の複雑さをもあぶり出していくのだ。
さらに驚嘆させられるのは、題名にもなっている“罪”という主題が重層的なドラマとして描かれていることだ。その脚本の見事なひねりと、深い余韻を残す着地点にも唸るほかはない。(高橋諭治)
監督 | ジョナサン・ヘンズリー |
評価 | 3.85 |
解説
『ファイナル・プラン』などのリーアム・ニーソン主演によるアクション。鉱山事故の救出装置を運搬するトラックドライバーたちが、作業員の命を救うため危険な氷の道を走る。メガホンを取るのは『キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男』などのジョナサン・ヘンズリー。『コロニー5』などのローレンス・フィッシュバーン、『THE FORGER 天才贋作画家 最後のミッション』などのマーカス・トーマスのほか、アンバー・ミッドサンダー、ベンジャミン・ウォーカーらが共演する。
あらすじ
カナダの鉱山で爆発事故が発生し、作業員26人が地下に閉じ込められる。高い運転技術を誇るマイク・マッキャン(リーアム・ニーソン)ら4人のトラックドライバーが、30トントラック3台に分譲して救出に用いる装置を運搬する。30時間で鉱山内の酸素が尽きることから、彼らは最短ルートを選ぶが、そのルートは氷でできており、スピードが速すぎれば衝撃で、遅すぎれば重量で割れてしまうという危険な道だった。刻々とタイムリミットが迫る中、マイクたちは決死の思いでハンドルを握る。
監督 | トッド・フィリップス |
評価 | 4.11 |
解説
『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』などのホアキン・フェニックスが、DCコミックスの悪役ジョーカーを演じたドラマ。大道芸人だった男が、さまざまな要因から巨悪に変貌する。『ハングオーバー』シリーズなどのトッド・フィリップスがメガホンを取り、オスカー俳優ロバート・デ・ニーロらが共演。『ザ・ファイター』などのスコット・シルヴァーがフィリップス監督と共に脚本を担当した。
あらすじ
孤独で心の優しいアーサー(ホアキン・フェニックス)は、母の「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という言葉を心に刻みコメディアンを目指す。メイクをして大道芸を披露しながら母を助ける彼は、同じアパートの住人ソフィーにひそかに思いを寄せていた。そして、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、底辺からの脱出を試みる。
映画レポート
ダース・ベイダーに悪感情も恨みもないが、自分はヒール(悪役)の起源を描いた映画を、あまり好ましいものとは思っていない。かつては優しく純粋だった人物が、自己犠牲のすえにやまれず暗黒面へと身を寄せる。そんな綺麗ごとによって正当化される悪に、はたして説得力などあるのだろうか?
ヒーローコミックス「バットマン」の宿敵として登場するジョーカーは、廃液の満ちたタンクに落下し、異貌となった形相が本性を肥大化させ、世界で最も知られるヴィランの一人となった。だが彼の出自を再定義する本作は、そんな固定されたジョーカー伝説とは異質のコースをたどる。心を病み、それでも人々に笑いを提供する貧しい大道芸人が、社会からの孤立や資本主義がもたらす貧富格差といった膿汁で肺を満たされ、呼吸困難からあえぐように悪の水面へと浮かび上がっていく。苦しいのか、それとも開放感から出る笑みなのか分からぬ表情で。
このようにジョーカーこと主人公アーサー(ホアキン・フェニックス)は、自ら道を選んで悪の轍を踏んだわけではない。そこにはダークヒーローなどといった気取ったワードとは無縁の、逃れられない運命の帰結として悪が存在する。人生に選択の余地を与えぬ、容赦ない哀しみの腐臭を放ちながら。
監督のトッド・フィリップスは「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(09)を代表作とするコメディ一辺倒の手練れだが、「全身ハードコア GGアリン」(93)などキャリア初期のドキュメンタリーで得た人間観察の慧眼を助力に、“喜劇”のコントラストとしてそこにある“悲劇”へと踏み込んでいく。なので想定外の人選では決してない。コメディ作家だからこそ到達が可能な、そんな不可触領域にジョーカーは潜在していたのだから。
加えて過去、映像化されたジョーカーの歴任俳優は、それぞれが最高のパフォーマンスをもって役に臨んできた。ホアキン・フェニックスもその例に漏れず、自らをとことんまで追い込みパラノイアを体現することで、狂気の塊のようなキャラクターからつかみどころを見つけ、握った感触を確実にわがものにしている。
“狂っているのは僕か? それとも世間か???“ ドーランを血に代えた、悲哀を極める悪の誕生を見た後では、ジョーカーへの同情が意識を遮断し、もはやバットマンに肩入れすることなどできない。なんと恐ろしい作品だろう。(尾崎一男)
監督 | 万田邦敏 |
評価 | 3.36 |
解説
『接吻』『イヌミチ』などの万田邦敏監督によるドラマ。精神科医に恋をした患者の女性が、彼が思い続ける亡き妻への嫉妬に狂っていく。『チーム・バチスタ』シリーズなどの仲村トオル、『禁忌』などの杉野希妃、『麻雀放浪記2020』などの斎藤工、『ディアーディアー』などの中村ゆりのほか、藤原大祐、万田祐介、松林うららたちが出演する。
あらすじ
真摯(しんし)に患者と向き合うことが信条の精神科医・貴志(仲村トオル)。患者たちからの信頼の厚い彼だが、6年前に亡くした妻・薫(中村ゆり)のことが忘れられず、薬で精神を安定させていた。そんな貴志に診てもらっていた綾子(杉野希妃)は、いつしか彼と心を通い合わせるようになる。だが、貴志が薫への思いを捨てられないこと、彼女との子供・祐樹(藤原大祐)がいることを知って激しい嫉妬心に駆られる。独占欲が抑えられない彼女は、薫の弟・茂(斎藤工)に近づいて思わぬ行動を取る。
監督 | ポン・ジュノ |
評価 | 4.00 |
解説
実際に起きた未解決連続殺人事件をテーマにした衝撃サスペンス。韓国で560万人を越える動員数を記録。事実を基に綿密に構成された脚本と緊迫感あふれる映像で、犯人を追う刑事たちの焦燥感が身近に迫る。東京国際映画祭アジア映画賞受賞。主役は『シュリ』『JSA』で知られる、韓国の名優、ソン・ガンホ。田舎町の少々、愚鈍な刑事を演じるため、体重を10kg増やし役作りした。監督・脚本は『ほえる犬はかまない』のポン・ジュノ。
あらすじ
1986年10月23日、農村で若い女性の変死体が発見される。地元の刑事パク(ソン・ガンホ)は地道な取り調べを始めるが、現場は大勢の見物人で荒らされ、なかなか証拠がつかめない。やがて、第ニの事件が起きてしまう。
映画レポート
昨年ようやく公開された「ほえる犬は噛まない」を00年の映画祭で観て以来、筆者の中では「次の動きが気になる監督ランキング世界一」となったポン・ジュノ。韓国社会のローカル性に執着したミクロな視点を、汎世界的でマクロな人間描写・歴史認識へと繋げる稀有な才能は、エンタテインメント度を増した本作でさらにパワーアップしている。
86年、ソウル近郊のある農村で起こった未解決連続殺人事件。これを忠実に映画化した本作は一応サイコ・ミステリというジャンルに区別できるだろうが、ゴアな猟奇趣味はきわめて稀薄。あくまで主眼は事件を捜査する刑事たちの熱情と挫折を描くことにある。しかし、リアリスティックな警察ドラマと言い切るのもまた躊躇させるのだ。
時代はチョン・ドゥファンによる軍事政権下。灯火管制のサイレンの中で防空演習に駆られる民衆の姿や、反政府デモ鎮圧のため警察官が出払っていて殺人の兆候をキャッチしながら防げない、といったキナ臭い描写が断片的に置かれているのが象徴的だ。つまり閉塞と抑圧のなかで、誰も気づかぬうちに人間性が失われていく「見えない恐怖」をこそ、ポン・ジュノは描こうとしているのである。
この映画では史実どおり犯人が捕まらないが、彼はこの事実が過去そして現在において何を意味するのか、ラストの衝撃的なひとことで観客に問いかえす。たしかに軍事政権は崩壊したが、それで社会は抑圧から解放されたのか? 不安に満ちた空気の中で蠢く「見えない犯人」は、あいつであり、あなたであり、またわたしであったとして何の不思議もないのだ。 (ミルクマン斉藤)
監督 | 李相日 |
評価 | 3.99 |
解説
『横道世之介』『さよなら渓谷』などの原作者・吉田修一のミステリー小説を、『悪人』でタッグを組んだ李相日監督が映画化。現場に「怒」という血文字が残った未解決殺人事件から1年後の千葉、東京、沖縄を舞台に三つのストーリーが紡がれる群像劇で、前歴不詳の3人の男と出会った人々がその正体をめぐり、疑念と信頼のはざまで揺れる様子を描く。出演には渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡など日本映画界を代表する豪華キャストが集結。
あらすじ
八王子で起きた凄惨(せいさん)な殺人事件の現場には「怒」の血文字が残され、事件から1年が経過しても未解決のままだった。洋平(渡辺謙)と娘の愛子(宮崎あおい)が暮らす千葉の漁港で田代(松山ケンイチ)と名乗る青年が働き始め、やがて彼は愛子と恋仲になる。洋平は娘の幸せを願うも前歴不詳の田代の素性に不安を抱いていた折り、ニュースで報じられる八王子の殺人事件の続報に目が留まり……。
映画レポート
真の悪人とは何かという根源的な問いかけをモチーフにした「悪人」(10)で映画賞を総ナメにした吉田修一原作、李相日監督のコンビによる新作である。
酷暑が続くある夏の日、八王子で夫婦殺害事件が起こる。現場の壁面には「怒」という謎の血文字が残されるが、整形した犯人の行方は杳として知れない。一年後、東京、千葉、沖縄に素性のわからない三人の男が出現する。
千葉の漁港。家出して風俗店で働いていた愛子(宮崎あおい)は父親(渡辺謙)に連れ戻され、やがて田代(松山ケンイチ)に惹かれて、結婚を決意する。ゲイのサラリーマン優馬(妻夫木聡)は新宿のサウナで直人(綾野剛)と出会い、意気投合して同棲する。沖縄の無人島で、高校生の泉(広瀬すず)が出会うバックパッカーの田中(森山未來)は民宿の手伝いを始める。
三つの時空で展開するドラマは決して交差しない。映画は、犯人は誰かを探索するというミステリーの話法をとりあえず遵守しながらも、個々の人間の内面で生起する深い葛藤にこそ焦点が絞れていくのである。
それぞれのエピソードは優に一篇のドラマとして成立するほどだが、単なる群像劇ともオムニバスとも異なる語り口によって、次第に焙り出されるのは、人が人を愛すること、信じることの根拠がいかに不確かで脆弱なものであるかという残酷な定理である。
冒頭の惨殺現場の目をそむけたくなる、むせかえるような密閉感に始まり、李相日は、沖縄の灼熱、東京の喧騒、千葉の静謐な大気感など、空間の把握力において抜群の冴えを見せる。だが、見終えると、「怒り」という主題の内実は、不分明なままというもどかしさも感じられる。(高崎俊夫)
監督 | リック・ローマン・ウォー |
評価 | 3.82 |
解説
ジェラルド・バトラーが『エンド・オブ・ホワイトハウス』『エンド・オブ・キングダム』に続き、シークレットサービスを演じるアクションシリーズの第3弾。アメリカ大統領の暗殺未遂事件の容疑者に仕立て上げられた主人公が、自らの潔白を証明するため奮闘する。前作で副大統領だったモーガン・フリーマンが大統領を演じるほか、ジェイダ・ピンケット=スミス、ニック・ノルティらが出演。『ブラッド・スローン』などのリック・ローマン・ウォーがメガホンを取った。
あらすじ
テロ事件から世界を守ったシークレットサービスのマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)は、過酷な職務のため満身創痍で、引退を考え始めていた。ある日、休暇中のトランブル大統領(モーガン・フリーマン)が大量のドローン爆弾に襲撃される。攻撃の最中意識を失ったマイクは、目を覚ますと大統領暗殺を企てた容疑者としてFBIに拘束されていた。
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