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櫛木理宇による小説『死刑にいたる病』。怖いと知りながらもお化け屋敷に入ってしまう、それと同じように、ハッピーでないのにページをめくる手が止まらない、そんな「イヤミス」小説です。
本記事ではそんな『死刑にいたる病』の感想と考察、それから2022年5月6日に公開予定の映画情報について紹介します。筆者も実際に小説を読みましたが、眠る間も惜しんで一気読みしてしまうほど、心を掴んで離さない面白さがありました。
軽いネタバレも含みますので、まだ小説を読んでいない方は注意しながらご覧ください!
『死刑を榛村は覚悟している。だからこその「お遊び」だ。死刑台にのぼるその一瞬前まで、彼は楽しんでいたいのだ。』
ーーこの文章を読んだ瞬間、全身に鳥肌が立ちました。『死刑にいたる病』を読んだ読後の、泥が喉につかえたような気持ち悪さは、この文章の影に漂う薄気味悪さから滲み出ていたのだと。
主人公である筧井雅也は、肥大させた自意識を持て余しながらも、他人を見下すことでしか自分を保てない大学生。「神童」と期待されながらも高校でつまずき、いわゆる「Fラン大学」で鬱々とした日々を過ごしていました。
そんなある日、連続殺人鬼で死刑を待つ榛村大和から「罪は認めるが最後の1件だけは冤罪だ。それを証明して欲しい」と頼まれます。雅也は少年時代、パン屋の亭主であった榛村を慕っていました。そして何より、落ちぶれた現在の自分ではなく、神童の頃の自分を知る榛村と接することで、雅也の自尊心は歪んだ形のままくすぐられていきます…。
本作の要は、榛村と雅也の2つの共通点にあると感じました。
1つ目の共通点は、2人とも間違った全能感を抱いている点。榛村はそれゆえ逮捕されることを恐れずに連続殺人を繰り返し、雅也は周りの友達を見下し孤立した日々を送っています。
2つ目の共通点は、榛村にも雅也にも「2人の母親」がいた点。榛村には「生んだ母親」と「養母」が、雅也にも「生んだ母親」と「母親の役割をになった祖母」がいました。小説の中で榛村と雅也は悪と正義のような対立した立場で描かれていますが、実は二人の根っこには共通点があり、雅也は大海原に浮かぶ小船のように、どんどん榛村の手のひらで転がされていくのです。
雅也が榛村を「異質な殺人鬼」とラベリングしながらも、榛村のおかげで自信を取り戻し、立ち直っていく様子は、まさに人間の自尊心と弱さを繊細に描いていたと思います。共通点を持つ榛村と雅也ですが、榛村が「完璧な自分を破壊する」方向に動くのに対し、雅也は「完璧な自分を取り戻そうとする」方向に動いているのが対照的で興味深かったです。
そしてラストで明かされる真実。本来ならば真相が明かされれば明かされるほど、安心できるはずなのに、本書はなぜかどんどん不安になる。どうか嘘であって欲しいと願いながら、最後の一行で崖の下に落とされるような絶望を感じる。いつの間にか読者である私たちも、榛村に情緒を弄ばれているかのような気持ちになるのです。
「エンターテイメント」が「没入感を生み出すもの」なのだとしたら、『死刑にいたる病』は最高のエンターテイメント小説でしょう。「ああ楽しかった」と本を閉じるのではなく、「二度と読みたくない」と感じさせながら、知らずしらずのうちに、また本を手にとってしまうくらいの中毒性を持つのですから。
本作は岡田健史や阿部サダヲをキャストとして迎え映画化、2022年5月6日公開に公開予定とのこと。この二度と見たくない最高傑作がスクリーンで観られるなんて、最高だと思います。
連続殺人鬼・榛村大和のために、事件の調査を行う大学生・筧井雅也にフォーカスした本作。榛村大和役を演じるのは、『彼女がその名を知らない鳥たち』『トキワ荘の青春』などにも出演した阿部サダヲさんです。映画では優しそうな面を被った悪魔・榛村大和の複雑な役回りをどのように演じるのか注目ポイント。
また、原作小説では猟奇殺人犯の冤罪を若者が調査していった末、結末で描かれる真相が後味の悪いものになっていました。そのような暗さを実写映画という場所でどのように描かれていくのかも楽しみですね。本作を担当する白石監督は、アウトローの世界観を得意としており、原作にある混沌さや薄気味悪さを上手く表現してくれるのではと期待されています。
主演となる大学生・筧井雅也を演じるのは『望み』『新解釈・三國志』などでも活躍した岡田健史さんです。体当たりで表現される演技は注目したいところ。彼を抜擢した監督は『日本で一番悪い奴ら』や『凪待ち』『孤狼の血』『孤狼の血LEVEL2』の白石和彌監督です。
本人インタビューでは「伝えたいことが豊富な作品に巡り合えた実感に驚いている」「本作で演じた雅也は一見どこにでもいそうな男性です。どこにでもいそうだからこそ、日本で起こり得る機微を雅也は持っています。作中過激なシーンもありますが、ぜひ同年代の方に見ていただきたい作品です。人は人に怯え、傷つけ、傷つけられて、抱きしめられ、救われているということ、それはつまりなんだろうと思春期に考える時間が欲しかったからこそ思います」とコメントしていました。
事件を調査する主人公・筧井雅也の行く先々に現れる謎の男・金山一輝を演じるのはEXILEの岩田剛典さんです。半分顔が隠れてしまうほどの長髪が特徴的で、異様な雰囲気を纏っています。多くを語らない難しい役柄を岩田剛典さんがどのように演じるのかは気になるところ。
本人はコメントで「感情を自分の中で明確にして臨みました」「白石監督、そして主演の阿部さんとは今作で初めてご一緒させていただき、岡田さんとは2度目の共演でしたが以前の作品では同じシーンがなかったので、一緒に芝居をさせていただいたのは初めてでした。短い期間でしたが、楽しい撮影現場でした。」と語っています。
作品を担当した白石監督は「いつかお仕事をしたいと思っていた岩田さんに出演していただけたことが嬉しかったです。難しい役を魂込めて演じてくださいました。またガッツリやりましょうと固く握手したのが忘れられません。岩田さんとは長い付き合いになりそうです。」とコメントしていました。
白石和彌監督はアウトローの世界を描いた作品を得意とする監督です。2009年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編作品デビューしました。その後、2017年には『彼女がその名を知らない鳥たち』でブルーリボン賞監督賞を獲得。
2018年にも『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『サニー/32』で同賞を受賞したことで、2年連続の受賞と言った快挙を果たします。白石監督が注目を集めたのは2013年に公開した映画『凶悪』でのこと。本作で数々の賞を受賞して、映画監督としての注目を集めることになりました。
本作を監督するにあたってコメントで「自分自身が10代。20代のころに持っていた鬱屈と、本作の後ろめたい憧れを抱いてしまう殺人鬼の両方が見事なコントラストで混在している。そんな櫛木先生の原作に心を奪われて、映画化させる承諾をいただきました。また、阿部さんと岡田さんの出会いも運命を感じる事件だったと思います。映画を見た後にどんな感情が残るのか、自分自身とても楽しみです。」と語っています。
『死刑にいたる病』は2022年5月6日公開です。白石監督が惚れ込んだ原作なだけあり、どのような世界観で表現されるのか気になりますね。重要なキャラクターはそれぞれ難しい役柄となっており、俳優陣の方々の演技も必見です。本記事で想像できない部分はぜひ映画館で確認してみてくださいね。
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