10月30日に開幕した第34回東京国際映画祭においては、『犬猿』(2018)などの作品で知られる吉田恵輔監督の作品である映画『BLUE /ブルー』が、東京・日比谷のTOHOシネマズシャンテで上映され、吉田恵輔監督がティーチインを行いました。30年以上ボクシングを取り組んできた吉田監督が、自ら脚本を書き、殺陣指導をし、熱い思いで、ボクシングに人生を捧げる人たちの熱い生き様を描きました。
本日は、この映画をみなさんに届けたいと思います。「時に人生は残酷だ。どんなに努力をしても、どれだけ才能があっても、約束された成功なんてない。」というメッセージ。そして見終わって、湧き上がってきた感動などをみなさんと共有をしたいです。
公開 | 2021年4月9日公開 |
監督・脚本・殺陣指導 | 吉田恵輔 |
キャスト | 松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生、東出昌大、守谷周徒、吉永アユリ、長瀬絹也、松浦慎一郎、松木大輔、竹原ピストル、よこやまよしひろ |
ボクシングを愛するが才能がない主人公である瓜田、その一方抜群の才能とセンスで日本チャンピオンの座まで手に入れた瓜田の後輩小川。そして瓜田の幼馴染でもあり、ボクシングの世界へ導いたくれた初恋の千佳。そんな3人のまつわる話で、いくら負けても努力し続ける瓜田ですが、ある日ある出来事で、2人に自分の思いを伝えていき、そして関係がそこから変わり始めた。
私が感動した一言です。吉田監督がインタビューの時に言った言葉、「流した涙や汗、全て報われなかった努力に花束を渡したい気持ちで作った」です。そう、本作は花束です。主人公である弱すぎるボクサーである瓜田、彼のような努力したが、何も報われないものへ捧げる花束なのです。
瓜田は弱いです。初恋の千佳がライバルである小川の恋人になったし、どんなに努力してもボクシングは負け続けています。でも瓜田も強いです。その強さというのは、才能がなくて、なかなか芽が出なくても負け続けていても、それでも好きなことを続けるという強さです。
瓜田の強さは、小川と楢崎とのご飯のシーンに現れています。小川と楢崎と一緒にご飯を食べて、楢崎が「瓜田さんからノートもらったんですよ。これ見てください」と言いました。それを見ながら、小川が「あのひとは強いよ」と言いました。瓜田の強さは、自分は負けて引退してしまったのに、楢崎の為に、トレーニングノートを作ってあげたところです。
瓜田の強さは、小川がチャンピオンベルトをかけた一戦にも現れています。その試合で声をあげて、瓜田は小川を応援しました。小川に向けて瓜田が自分の作戦をひたすら叫び続けていました。ライバルで後輩の小川にはずっと負けてくれと思っているものの、嫉妬しながらも、小川が勝てるように、本気で戦略を考えてあげられるような強さです。
そう、瓜田の強さというのは人を支えることができるところです。
そして、瓜田は世間一般我々のような一般な人です。
普通のボクシング映画でしたら、主人公が逆境をはねのけて努力をして、苦労を重ねて、勝利を掴みとるということで感動を生むと思いますが。瓜田は負け続けています。地味に負けています。瓜田には成功がないです。でも成功がないからこそ、それが現実です。現実というのがそういうことです。才能ない人でも頑張ったことで努力が報われるという甘い世の中ではないということを、瓜田を通じて、監督がその世界観を我々に伝えようとしています。そして、それが地味に響きました。地味ですが、あえてカタルシスを生まないことで、地味に成功を味わっていなくても努力している人への敬意でもありリスペクトでもあると考えています。自分の今までの人生を振り返ってみても、瓜田のように負け続け、そして、戦い続けてきています。そして、瓜田は教えくれました。努力も大事ですが、諦めることも大事だというのを教えてくれました。
それは小川がチャンピオンになるシーンです。瓜田は自分が考えた戦術を小川に必死に伝えようとしました。でも小川さんが小川の考えたバックして、フックで勝ちに行きました。瓜田はそんなの、勝てるわけないと否定しましたが、小川が勝ちました。勝ってしまいました。その瞬間、瓜田は小川の強さを認めましたでしょう。そこから瓜田は黙ってしまいました。小川には自分にない才能を持っているということを認めました。認めたくはなかったのですが、認めました。小川がチャンピオンになるところで、はっきりと白黒がつけられました。そして、その日、小川が勝った日、チャンピオンになったあの日に、瓜田が引退することを決めました。
彼は大好きなボクシングを諦めました。
そんな彼ですが、ラストの漁港で仕事をしている最中に、思わずシャドーボクシをしてしまうシーンがあります。私はそのシーンを見て、ものすごく泣きました。哀愁漂うように好きなものから身を引きましたが、その好きな気持ちは忘れることはなく、ずっと残り続けると思います。好きだという熱は消えないことに、私はとても感動しました。瓜田はリングで負けたかもしれないですが、人生のリングにおいては、負けてないと思います。そして、自分が今まで培ってきた技術や経験なども消えることがなく、楢崎に引き継がれています。
楢崎は最初からゲームセンターで働いて、中学生の喫煙を止めるために注意するのですが、逆に中学生にボコボコにされました。「裏に来い」と言って、中学生と裏に行きましたが、一発も殴り返すこともなく終わってしまいました。そして、好きな女子にやり返さなかったのかと言われました。「実は僕ボクシングやっているから」と嘘をつきました。それは楢崎がボクシングの始めたきっかけです。「やっている風でいいんですよ」と言っている楢崎に、瓜田は「わかりました。じゃあ、やりましょうか」と、そんなに風に、楢崎のボクシング人生が始まりました。
本作の中で、一個とても印象深い面白いシーンがありました。楢崎は、「失恋しちゃって、もう俺にはボクシングしかない」と言って、サンドバッグを気合い入れて思いっきり叩いているところ、会長に「うるさい」と言われました。顎のない会長がちょっと特徴のある声で言うから面白かったです。「楢崎、お前うるせーよ」という。そんな笑いは楢崎が与えてくれました。
不純な動機でボクシングを始めて、最初は嫌でしたが、徐々にボクシングの楽しさを覚えていて、プロテストも受かりました。デビュー戦は負けてしまったけど、ボクシングを続けるという選択肢をしました。その試合でこの楢崎は今まで自分が培ってきたものを、すべて発揮することができたと思います。だから楢崎は、その試合の結果では負けましたが、勝ったと私は思います。今まで積み重ねてきたものを発揮できたということだけでも、十分人生の勝ち組だと思います。私はそんな楢崎に感動しました。彼はこう言いました。「俺のやりたいことがこれだ。」楢崎が自分のやりたいことを見つけました。だからこそ、試合に負けたのに、誇らしい顔をしています。この楢崎の最後のボクシングの試合、映画でも写していなかったのですが、客席で見ている瓜田はきっと笑顔だと思います。昔の自分の姿と重なったことで、瓜田は笑っていると思います。
そこで、涙をこぼした私です。本当に、どんなに好きでも、努力しても報われないこともたくさんあるけど、それは無駄じゃないというのが、身に沁みました。人生においては、我々誰もがブルーコーナーの挑戦者です。仮に芽が出なかったとして、人生というリングで戦っている人は、花束を捧げるべきのではないかと思います。
人間味を溢れるボクシング映画、それが『BLUE/ブルー』です。Netflixでも見れますので、ぜひご鑑賞ください。
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