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監督 | ジェームズ・ワン |
評価 | 4.05 |
解説
『アクアマン』などのジェームズ・ワンが製作と監督などを手掛けるホラー。殺人鬼による犯行現場を目撃するという悪夢に悩まされる主人公に、魔の手がのびる。『スカイスクレイパー』などのエリック・マクレオド、『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』などのジャドソン・スコットらが製作総指揮を担当。『アナベル 死霊館の人形』などのアナベル・ウォーリス、『アイ・ソー・ザ・ライト』などのマディー・ハッソン、ジョージ・ヤング、ミコール・ブリアナ・ホワイトらが出演する。
あらすじ
マディソンは、あるときから目の前で殺人を目撃するという悪夢を見るようになる。超人的な能力で次々と犠牲者を殺めていく漆黒の殺人鬼による夢の中の殺人事件が、ついに現実世界でも起きてしまう。人が殺されるたびに、殺人現場を疑似体験するようになったマディソンに魔の手が忍び寄る。
監督 | アリ・アスター |
評価 | 3.03 |
解説
長編デビュー作『へレディタリー/継承』で注目されたアリ・アスターが監督と脚本を務めた異色ミステリー。スウェーデンの奥地を訪れた大学生たちが遭遇する悪夢を映し出す。ヒロインを『ファイティング・ファミリー』などのフローレンス・ピューが演じ、『ローズの秘密の頁(ぺージ)』などのジャック・レイナー、『メイズ・ランナー』シリーズなどのウィル・ポールターらが共演。
あらすじ
思いがけない事故で家族を亡くした大学生のダニー(フローレンス・ピュー)は、人里離れた土地で90年に1度行われる祝祭に参加するため、恋人や友人ら5人でスウェーデンに行く。太陽が沈まない村では色とりどりの花が咲き誇り、明るく歌い踊る村人たちはとても親切でまるで楽園のように見えた。
映画レポート
ノーテンキな若者たちが人里離れた旅先で、文明社会の常識が通用しない惨劇に巻き込まれる。これはいわゆる田舎ホラーの王道のプロットだが、「ミッドサマー」のアメリカ人大学生の一行が訪れるのは北欧スウェーデンの山奥だ。そこで彼らは90年に一度行われる夏至の祝祭に参加し、想像を絶する出来事を目の当たりにする。田舎どころではない秘境ホラーである本作は、あの怪作として名高い1973年のイギリス映画「ウィッカーマン」を数段スケールアップさせたかのような“奇祭ホラー”なのだ。
アリ・アスター監督率いるクルーは、代替ロケ地であるハンガリー・ブダペスト郊外の山間部にオープンセットの村を建造した。土着信仰を具現化したシュールな形状の建築物と絵画、装飾品の数々。カルト集団がまとう純白の伝統衣装。大地に咲き乱れる色とりどりの花々。美術、コスチュームのスタッフによる鮮烈なアートワークに負けじと、撮影班の仕事ぶりも異彩を放つ。日の沈まないミッドサマーの草原をまばゆいほどのハイキーのトーンで捉えるとともに、いつしか時間感覚が朦朧とし、現実と悪夢の境目が溶けていく様を幻惑的なカメラワークでビジュアル化。フォークロアなダンスと音楽、極彩色の花飾りがスクリーンに横溢する光景は、めくるめく陶酔感すら呼び起こす。
ふと我に返ると、これは本当にホラーなのだろうかと疑念がわく。本来、ホラーとはうっとりと酔いしれるものではなく、おそるおそる指の隙間から観てはいけないものを覗き見するジャンルのはずだ。それなのに白昼堂々と奇怪な儀式が次々と繰り出される映像世界は、筆者の困惑などお構いなしにぐんぐん高揚し、冗談のようにカラフルな輝きを増していく。
実はこの映画、視点が普通ではない。主人公のダニーは家族の不幸と恋人による背信の二重苦に見舞われ、精神状態がどん底の女の子。そんな彼女の主観ですべてが進行するため、どこか正常と異常の認識がとち狂っている。他の男子学生たちには理不尽なホラーでしかないこの祭りは、ダニーにとっては未知なる快楽や解放をもたらすファンタスティックなセラピーなのだ!
惨たらしい家族崩壊のオカルト劇だった前作「ヘレディタリー 継承」には、アスター監督の“自伝”的要素がこめられていたというが、おそらく今回の主人公Dani Ardorもまた、韻を踏んだネーミングからしてAri Asterの分身的キャラクターなのだろう。かくして狂気が歓喜へ、地獄が楽園へ反転する映画は、尋常ならざるクライマックスへ突き進んでいく。もはや悲鳴さえ聞こえない、荘厳なる絶頂がそこにある。(高橋諭治)
監督 | ジャウマ・コレット=セラ |
評価 | 3.96 |
解説
孤児院の少女を養子に迎え入れた夫婦が、その日以来奇妙な出来事に遭遇する恐怖を描くサスペンス・ホラー。『蝋人形の館』のジャウム・コレット=セラ監督がメガホンを取り、実子を流産で亡くしたことへのトラウマと謎めいた養女に苦しめられる夫婦の姿を追う。悪魔の形相を見せる少女役の子役イザベル・ファーマンの熱演、ホラー作品を得意とするダーク・キャッスル・エンターテインメントによる一流の恐怖演出が観る者をとらえて離さない。
あらすじ
子どもを流産で亡くしたケイト(ヴェラ・ファーミガ)とジョン(ピーター・サースガード)は悪夢とトラウマに苦しみ、夫婦関係も限界を迎えていた。以前の幸せな日々を取り戻そうとした彼らは養子を取ることに決め、地元の孤児院を訪問。そこで出会ったエスター(イザベル・ファーマン)という少女を養女として迎え入れる。
監督 | ヨン・サンホ |
評価 | 4.01 |
解説
カンヌ国際映画祭やシッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭などで話題となったパニックホラー。感染した者を凶暴化させる謎のウイルスが高速鉄道の車両内にまん延する中、乗客たちが決死のサバイバルを繰り広げる。『トガニ 幼き瞳の告発』『サスペクト 哀しき容疑者』などのコン・ユらが出演。群れを成して襲い掛かる感染者たちに恐怖を覚える。
あらすじ
別居中の妻がいるプサンへ、幼い娘スアンを送り届けることになったファンドマネージャーのソグ(コン・ユ)。夜明け前のソウル駅からプサン行きの特急列車KTX101号に乗り込むが、発車直前に感染者を狂暴化させるウイルスに侵された女性も乗ってくる。そして乗務員が彼女にかみつかれ、瞬く間に車内はパニック状態に。異変に気づいたソグは、サンファ(マ・ドンソク)とその妻ソンギョン(チョン・ユミ)らと共に車両の後方へ避難する。やがて彼らは、車内のテレビで韓国政府が国家非常事態宣言を発令したことを知り……。
映画レポート
日本の映画宣伝は「ゾンビ映画」という売り文句を避ける傾向にある。ジャンルを明示して、客層が狭まるのを恐れるからだ。そこで「感染パニック」などと婉曲な言い回しで煙に巻き、不特定多数の興味をあおる。かつては「トランスフォーマー」シリーズもこうした顰みにならい「謎の生命体」と正体をボカされていたっけ。日本でトランスフォーマーを秘す意味不明さは置いといて。
どうあれ、とかく映画ファンに評判の悪いこの傾向には、自分も辛辣な態度をとってきた。しかし「新感染 ファイナル・エクスプレス」は、むしろそういった目隠し宣伝の正当性を証明しており、少し口惜しさを覚える。ゾンビパニックと鉄道サスペンス、そしてロードムービーを融合させた本作を「ゾンビ映画」という狭義に収めるのは確かにもったいない。この映画はまさに究極の特急サバイバルアクションとして、ジャンルの臨界点を易々と超えているのだから。
特急と言ったのは他でもない。物語は韓国の特急列車・KTX101号が主舞台だ。ソウル駅から釜山駅へと向かうこの長距離列車の中で、ウイルスに感染した人間がゾンビ化し、乗客たちは狂騒の渦に巻き込まれる。映画はそんな凶暴な怪物と乗客との、緊迫に満ちた死闘が繰り広げられていく。車内という限定空間、しかも停車駅にも大量のゾンビが待ち受け、下車を試みても阻まれてしまう。乗客は増え続けるヤツらと戦いながらも、列車はひたすら走り続けるしかないのだ。
このムチャをこねて固めたような展開を、肉厚な人間ドラマで納得させてしまうのが韓国映画だ。極限下に置かれた乗客どうしの軋轢が、事態をこれ以上ないほどに悪状況へと向かわせ、加えて主人公ソグ(コン・ユ)と娘スアンのエピソードが、観る者の感情の持って行きどころを「怖さ」だけに留めず拡げていく。仕事で家庭を顧みなかった父が、ゾンビとの戦いを通じて子との絆を取り戻す。そんな二人の末路もまた、ゾンビ映画という枠を超えた感動をもたらすのである。
また恐怖描写も、コリアンホラーの流儀にしたがい加虐的だ。人間めがけてゲリラ豪雨のようにダイブしてくる大量のゾンビや、車両にへばりついたゾンビが磁石につく砂鉄のようにつながり、列車をストップさせそうになるなど、それらは過去に山ほどあるこのジャンル作で、ついぞお目にかかったことがない。
飽和状態でオワコンの危険性ただようゾンビ映画。本作は、その革命を告げるホーンを鳴らしながら、まさに特急列車のごとく観る者をジャンルの新境地へと運ぶ。そんな全人類に薦めたい「ゾンビの車窓から」なのである。ソンビの車窓から……って、オレ自身が目隠し宣伝を非難できるセンスじゃないけど。(尾崎一男)
監督 | ブルース・ウェンプル |
評価 | 2.53 |
解説
未確認生物と人間、それ以外の得体の知れない者たちによるバトルを描くホラー。未確認生物の調査に行ったチームのメンバーたちと、死霊や人食鬼グール、そして未確認生物のビッグフットらが死闘を繰り広げる。『タイムトラベルZ』などのブルース・ウェンプルがメガホンを取り、ジャレッド・バログがクリーチャーデザイン、ライアン・スローン、ロジャー・M・メイヤーらが製作を手掛ける。アドリアン・バーク、ルジョン・ウッズ、アリエラ・マストロヤンニ、アンナ・シールズらが出演する。
あらすじ
大学の未確認生物学の実習チームが、ビッグフットが多数目撃されているアメリカ北東部のとある場所を訪れる。彼らが調査の拠点にした山小屋周辺には、死霊や謎の人食鬼グールたちが存在していた。夜になるとある者は死霊に取りつかれ、また別の者はグールの餌食となる。
監督 | 入江悠 |
評価 | 2.71 |
解説
劇団イキウメを主宰する劇作家、演出家である前川知大の戯曲を原作にしたホラー。韓国に暮らす兄のもとを訪ねた女性が、彼と一緒に不気味な土地に足を踏み入れてしまう。メガホンを取るのは、『シュシュシュの娘』などの入江悠。『さんかく窓の外側は夜』などの岡田将生、『一週間フレンズ。』などの川口春奈らが出演する。
あらすじ
だらしない夫との生活に耐えられず、離婚を決意した要(川口春奈)。彼女は日本を出て、韓国の別荘に暮らす兄・輝夫(岡田将生)を訪ねる。妹の突然の訪問に驚く輝夫だが、彼女の夫に対する不満をとことん聞き、心の傷が癒えるまで兄妹で韓国にいることにする。穏やかに過ごすつもりの兄妹だったが、立ち入った者が奇妙な死を遂げると伝わる聖地Xに足を踏み入れてしまう。不可解な現象に襲われる彼らは祈祷師のおはらいを受けるが、次々と惨劇が起きる。
監督 | ジェラルド・ブッシュ |
評価 | 3.95 |
解説
『ゲット・アウト』などのプロデューサー、ショーン・マッキトリックが製作したスリラー。社会学者として華やかな日々を送っていた女性の転落と、ある黒人奴隷の女性の運命が描かれる。メガホンを取るのは、ジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツ。『ムーンライト』などのジャネール・モネイ、『ウインド・リバー』などのエリック・ラング、『スターダスト』などのジェナ・マローンのほか、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズらが出演している。
あらすじ
社会学者で人気作家でもあるヴェロニカ(ジャネール・モネイ)。招かれたニューオーリンズで見事なスピーチを披露して喝采を浴び、友人たちとディナーを楽しんだ直後、順風満帆だった彼女の日常は突如崩壊してしまう。一方、アメリカ南部の綿花畑で奴隷として重労働を強いられているエデン(ジャネール・モネイ)。ある悲劇に見舞われた彼女は、それを機に奴隷仲間と脱走を企てる。
監督 | ヴェロニカ・フランツ |
評価 | 2.71 |
解説
整形手術後別人のように豹変した母を名乗る女と、その正体を疑う双子の兄弟の息詰まる関係を描いたサイコスリラー。変わり果てた母をめぐり、兄弟をのみ込む狂気が膨れ上がっていくさまをクールな映像美で映し出し、シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭など世界各地の映画祭を席巻した。『パラダイス』3部作の脚本を手掛けたヴェロニカ・フランツがメガホンを取り、包帯姿の母親を『ザ・ファイト 拳に込めたプライド』などのズザンネ・ヴーストが演じる。
あらすじ
人里離れた田舎の一軒家で9歳の双子の兄弟(エリアス・シュヴァルツ、ルーカス・シュヴァルツ)が母親の帰りを待ちわびていたが、帰ってきた母親(ズザンネ・ヴースト)は整形手術を受けて頭部が包帯で覆われていた。明るく優しかった母は別人のように冷たくなっており、兄弟は本当に自分たちの母親なのかと疑念を募らせる。女の正体を確かめるべく、兄弟が包帯女を試そうとする行為は次第に過激になっていき……。
監督 | 内藤瑛亮 |
評価 | 3.13 |
解説
「ハイスコアガール」などの漫画家・押切蓮介のコミックを実写映画化。閉鎖的な田舎に転校していじめの標的になった少女の運命を描く。主演は『咲-Saki-』などの山田杏奈、彼女が唯一心を許せるクラスメートに『ちはやふる』シリーズなどの清水尋也がふんするほか、大塚れな、中田青渚、片岡礼子、寺田農らが共演。『ライチ☆光クラブ』などの内藤瑛亮がメガホンを取った。
あらすじ
東京から田舎に転校してきた野咲春花(山田杏奈)は、学校でひどいいじめを受けていた。唯一心を許せる存在は、同じ転校生の相場晄(清水尋也)だけだった。彼の存在を頼りに学校生活を送っていた春花だったが、いじめはどんどんひどくなっていく。ある日、彼女の自宅が火事になってしまい……。
監督 | ブライアン・ベルティノ |
評価 | 4.00 |
解説
シッチェス・カタロニア国際映画祭で2部門を受賞したホラー。農業を営む生家を久々に訪れた姉弟が恐ろしい体験をする。メガホンを取るのは『ザ・モンスター』などのブライアン・ベルティノ。『エンプティ・マン』などのマリン・アイルランド、『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』などのマイケル・アボット・Jrのほか、ザンダー・バークレイ、ジュリー・オリヴァー=タッチストーンらが出演している。
あらすじ
農場を営むテキサスの実家から離れ、別々に暮らすルイーズ(マリン・アイルランド)とマイケル(マイケル・アボット・Jr)の姉弟。病身の父親の状態が良くないと聞かされた彼らは、長らく帰っていなかった実家を訪れる。最期を迎えようとする父親を見守っていた母親は、二人の姿を目にするや「来るなと言ったのに」と突き放したような態度を取り、その晩首をつって死ぬ。そのことをきっかけに、姉弟に恐ろしい出来事が次々と降り掛かる。
監督 | 中島哲也 |
評価 | 3.18 |
解説
第22回日本ホラー小説大賞に輝いた澤村伊智の小説「ぼぎわんが、来る」を、『告白』などの中島哲也監督が映画化。謎の訪問者をきっかけに起こる奇妙な出来事を描く。主演を岡田准一が務めるほか、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡らが共演。劇作家・岩井秀人が共同脚本、『君の名は。』などの川村元気が企画・プロデュースを担当した。
あらすじ
幸せな新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)は、勤務先に自分を訪ねて来客があったと聞かされる。取り次いだ後輩によると「チサさんの件で」と話していたというが、それはこれから生まれてくる娘の名前で、自分と妻の香奈(黒木華)しか知らないはずだった。そして訪問者と応対した後輩が亡くなってしまう。2年後、秀樹の周囲でミステリアスな出来事が起こり始め......。
映画レポート
80年代から気鋭のCMディレクターとして名を馳せ、「下妻物語」(2004)以降はアクの強い人気小説をスローモーションやCG、アニメーションを駆使したスタイリッシュな表現で映画化してきた中島哲也監督。「嫌われ松子の一生」「告白」でも人間の業と闇に切り込んだフィルムメーカーが、「渇き。」(2014)から4年ぶりに放つのが「来る」だ。
今回の原作は、2015年の日本ホラー小説大賞の大賞受賞作「ぼぎわんが、来る」。イクメンパパの秀樹(妻夫木聡)、その妻・香奈(黒木華)、オカルトライターの野崎(岡田准一)の順に語り手が明確に切り替わる小説の三部構成を踏襲せずに、時間軸を交錯させながらゆるやかに一人称的視点を移動させることで、主要人物たちの二面性を効果的に描いていく。
小説の題から主語を消したタイトルが象徴するように、謎めいた怪物の描写は映画において相対的に減った。奇妙な名前の由来は割愛され、〈来る〉ときの姿も原作ファンには物足りないだろう。監督自身、ホラー映画をほとんど観ておらず「シャイニング」や「エクソシスト」くらいしか記憶に残っていないとコメントしている(本編にはこの2作をそれぞれ彷彿とさせるシーンがあるのだが)。そのぶん中島監督が重きを置いたのは、やはり人間の業と闇だ。とりわけ野崎と香奈にはエピソードを大幅に追加して人物に奥行きを与え、メインキャラたちの関わりをより有機的に描くことに成功している。
中堅から若手の実力派が揃ったキャストによるアンサンブルは各自の新味も加わり見応え十分だが、特筆すべきは日本最強の霊媒師・琴子に扮した松たか子だ。「告白」の教師役にも通じる“戦うダークヒロイン”の雰囲気をまとい、梨園の娘ならではの伝統的な所作と発声でキャラクターに説得力を持たせつつ、超然とした言動でささやかなユーモアも醸し出す。
琴子が美しい和装で臨む終盤の大がかりなお祓いの儀式は、原作にはない映画独自の場面で、魔物を退治する目的と裏腹な祝祭感はまさに中島流エンターテイメントの真骨頂だ。マンション街区の公園に組んだ大規模なセットと多数のエキストラ、儀式のパフォーマンスと強烈な視覚効果で作り出された贅沢なシークエンスは、中島監督と「告白」以来のタッグとなる東宝のヒットメーカー、川村元気プロデューサーの力も大きいだろう。怪物がやって来るホラーを起点としながらも、災いを招く人間の闇にフォーカスしたドラマを組み立て、豪華キャストの競演とゴージャスなスペクタクルで楽しませる。これぞ中島映画の到達点と言えよう。
監督 | ウィリアム・フリードキン |
評価 | 4.00 |
解説
12才の少女リーガンに取り付いた悪魔パズズと二人の神父の戦いを描いたウィリアム・ピーター・ブラッティ(オスカーを受賞した脚色も担当)の同名小説を映画化したセンセーショナルな恐怖大作で一大オカルト・ブームを巻き起こした。
映画レポート
1974年7月に公開された「エクソシスト」は前評判通りの大ヒットとなり、年間興行成績の首位を獲得。当時の日本はベストセラー「ノストラダムスの大予言」「日本沈没」の映像化によるパニック映画ブーム、ユリ・ゲラーのスプーン曲げがきっかけの超能力ブーム、中岡俊哉著「恐怖の心霊写真集」やTV「あなたの知らない世界」から始まる心霊ブームがほぼ同時に発生。そこに、オイルショックによる高度成長の終焉と、トイレットペーパー騒動や狂乱物価、さらには年300回を超える光化学スモッグ発生に見られる公害の影響が重なる。第二次ベビーブームの真っ只中、それらが引き起こす深刻な世相不安が「エクソシスト」のヒットと一大オカルトブームを大きく牽引したと言えよう。
本作は米公開時から「衝撃の実話」「関係者が次々と死亡」「原因不明の火災でセットが焼失」「観客に失神者続出」というショッキングな報道がなされた。少女リーガンに取り憑いた悪魔パズズと、メリン神父とカラス神父の命がけの悪魔祓いを描いた本作は、ドキュメンタリー出身のフリードキン監督でなければ出せない迫力に満ちている。実際、リアルを追求するために、監督は際どい手法を取っている。
カラス神父役のジェイソン・ミラーから驚愕の表情を引き出すために突然空砲を発砲する、リーガンの緑の吐瀉物を予告なしに顔面にかける(豆のポタージュとのこと)、ダイアー神父演じるウィリアム・オマリーに本番直前にビンタをして、悲嘆にくれるシーンを撮影、ベットで激しく揺さぶられるシーンではリンダ・ブレアは腰と背中に深いダメージを負った、リンダは有名な「スパイダー・ウォーク」でも背中を痛めたが、このシーンはカットされた(ディレクターズ・カット版で復活)、対決シーンでは息が白く見えるようにセットをマイナス40度に冷却、霜がおりるなか俳優には通常の衣装で演技させた、等々。
スタッフ・キャストの奮闘もあり、過激なショック描写と信仰というテーマで「エクソシスト」は73年賞レースの目玉に。ゴールデングローブでは7部門にノミネートされ、作品、監督、脚本、助演(リンダ・ブレア)の4部門を独占。本命オスカーでは「スティング」とともに作品、監督など最多主要10部門にノミネート(受賞は脚色賞と音響賞)。作品賞にノミネートされたホラー映画は「エクソシスト」が初、それ以降は2017年の「ゲット・アウト」まで現れなかった。
イタリア最大のエクソシストで知られる神父がお墨付きを与えるほど、この作品は「悪魔祓い」を真実として取り上げた画期的な映画だった。作中、精神科医の立場で科学的な解決を試みるカラス神父は、次々に襲いかかる超常現象を前に苦悩する。善と悪、神と悪魔は表裏一体であることを知ったカラスは、最後に信仰を取り戻し、命がけの決断で少女を救う。その結末は驚きと共に深い感動を呼び、半世紀経った今も色あせない魅力を放つ。オカルト映画、キワモノという枕詞はあるものの、高い完成度を誇る人間ドラマとして、この機会にぜひ鑑賞して頂きたい。(本田敬)
監督 | 樋口真嗣 |
評価 | 2.22 |
解説
人間を捕食する巨人と人類との壮絶な戦いを描いた諫山創の人気コミックを基に、『巨神兵東京に現わる 劇場版』などの樋口真嗣が実写映画化したアクション大作。100年以上前に出現した巨人が巨大な壁をぶち破り、再び侵攻してきたことから、巨人対人類のバトルが繰り広げられる。エレンを『真夜中の五分前』などの三浦春馬が演じるほか、長谷川博己、水原希子、石原さとみ、國村隼といったキャスト陣が集結。原作にはないキャラクターも登場するなど劇場版ならではの展開や、巨人のビジュアルやすさまじいバトルの描写も見どころ。
あらすじ
100年以上前、人間を捕食する巨人が現れ、人類のほとんどが食べられてしまった。生き残った者たちは巨人の侵攻を阻止すべく巨大な壁を3重に作り上げ、壁の内側で暮らしていた。エレン(三浦春馬)やミカサ(水原希子)もそんな中の一人だった。そんなある日、100年壊されなかった壁が巨人によって破壊されてしまう。
映画レポート
鳴り物入りのハリウッド大作が居並ぶ今年のサマーシーズン、映画ファンの“期待”と“不安”を最もかき立てているのが本作だろう。国内外で社会現象的ブームを巻き起こしたコミック&TVアニメの実写映画化。前後編の2部作とはいえ、原作の緻密な世界観&キャラクター描写をすべて受け継ぐのは到底不可能だ。例えば主人公エレンは、少年時代に母親を巨人に食われたトラウマのエピソードが省略され、やり場のない苛立ちを抱えながら“壁”の外に憧れる若者として描かれている。
巨人の描写に関しては申し分ない仕上がりだ。序盤に出現する筋肉組織が剥き出しの超大型巨人、その異形の風貌と迫力に圧倒され、ただ愕然とスクリーンを見上げずにいられない。その後ぞろぞろと壁の内側に侵入してくる通常サイズの巨人たちは、呆けたような表情で人間たちを食べて食べまくる。這いずり巨人、女巨人、赤ちゃん巨人まで登場させ、この世界観の揺るぎない根幹である“とてつもなく巨大で理不尽な脅威”の映像化は成功したと言えるだろう。軍艦島ロケの効果も上々だ。
その半面、物足りなかった点もある。とりわけアニメ版では人類が巨人という“理不尽な脅威”に対抗するため、憲兵団や調査兵団が特定のミッションに挑む様が長大なシークエンスとして描かれ、集団活劇としての手に汗握るスリルを呼んだ。同時に、それらの難易度の高いミッションの成否がこの世界における絶望と希望の分かれ目となり、登場人物の死に物狂いの頑張りが共感を誘った。その点、今回の実写版でも超大型巨人に破壊された壁を塞ぐミッションが軸になっているものの、行き当たりばったりにクライマックスになだれ込んでいく印象がぬぐえない。立体起動装置を駆使した飛翔アクションが、せっかくの実写化でありながらアニメのように見えたのも微妙だった。
しかしながらミッションはまだ道半ばであり、人類の“反撃”はこれからである。はたしてエレンらは調査兵団として“壁の外”に飛び出すのか。そんな今後の展開への想像もあれこれ膨らまされる前編だった。
監督 | デヴィッド・ゴードン・グリーン |
評価 | 3.45 |
解説
ジョン・カーペンター監督作『ハロウィン』の続編として2018年に公開された『ハロウィン』の続編。前作で炎に包まれたマイケルが生還し、自身の過去が深く関わる街を恐怖に陥れる。監督に『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』などのデヴィッド・ゴードン・グリーン、キャストには『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』などのジェイミー・リー・カーティス、『フランクおじさん』などのジュディ・グリアら、前作のメンバーが結集している。
あらすじ
殺そうとしていたローリー・ストロード(ジェイミー・リー・カーティス)のトラップにはまり、燃え盛る家に閉じ込められたマイケル・マイヤーズ。だが、彼は炎から抜け出し、自身と深い因縁のある街ハドンフィールドで次々と人々を惨殺していく。住民たちはマイケルを倒そうと決起するが、その一方で恐怖に耐え切れずに暴徒と化してしまう者もいた。街が騒然とする中、ローリーは今度こそマイケルと決着をつけようと準備を進めていた。
監督 | アダム・ロビテル |
評価 | 3.43 |
解説
『ワイルド・スピード』シリーズなどのニール・H・モリッツが製作に名を連ねたスリラー。ゲームの参加者たちが、危険なわなが仕掛けられた部屋からの脱出を試みる。監督は『インシディアス 最後の鍵』などのアダム・ロビテル。ドラマ「ロスト・イン・スペース」などのテイラー・ラッセル、『パラサイト 禁断の島』などのローガン・ミラー、ドラマシリーズ「Marvel デアデビル」などのデボラ・アン・ウォールのほか、ジェイ・エリス、タイラー・ラビーンらが出演する。
あらすじ
1万ドルの賞金が懸かった体験型脱出ゲームの開催会場となったシカゴの高層ビルに、フリーターのベンや大学生のゾーイら6人の男女が集まる。ゲームが始まると、彼らは部屋が巨大なオーブンに変わる灼熱地獄や天地がひっくり返る逆さま地獄といった、姿を見せないゲームマスターが仕掛けたトラップを必死に攻略する。やがて彼らは、自分たちがさまざまな大惨事の生存者であることを知る。
監督 | 清水康彦 |
評価 | 2.51 |
解説
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督が手掛けたSFサスペンス『CUBE』の日本版リメイク。立方体の部屋がつながる空間に閉じ込められた男女6人が、決死の脱出に挑む。メガホンを取るのは『でぃすたんす』などの清水康彦。『花束みたいな恋をした』などの菅田将暉、『オケ老人!』などの杏、『さんかく窓の外側は夜』などの岡田将生のほか、田代輝、斎藤工、吉田鋼太郎らが出演する。
あらすじ
見知らぬ立方体の中で目を覚ましたエンジニアの後藤裕一(菅田将暉)、団体職員の甲斐麻子(杏)、フリーターの越智真司(岡田将生)、中学生の宇野千陽(田代輝)、整備士の井手寛(斎藤工)、会社役員の安東和正(吉田鋼太郎)。それぞれに接点はなく、なぜここにいるのかも分からない彼らは、脱出しようと四方につながるほかの立方体空間を移動していく。随所に仕掛けられた熱感知式レーザー、ワイヤースライサー、火炎噴射といった殺人的トラップをクリアし、暗号を解き続ける。
監督 | カルレス・トレンス |
評価 | 2.81 |
解説
ストーカー男に拉致され、地下のおりの中にとらわれた女性の運命を描くサイコスリラー。監禁される側と犯人側の攻防が、緊張感漂うタッチで展開する。監督は『[アパートメント:143]』などのカルレス・トレンス、脚本を『ラザロ・エフェクト』などのジェレミー・スレイターが担当。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどのドミニク・モナハン、テレビシリーズ「ロスト・ガール」などのクセニア・ソロらが出演。
あらすじ
動物保護センター勤務のセス(ドミニク・モナハン)は、同級生のホリーを見掛け声をかけるが冷たくあしらわれ、SNSで彼女のことを調べ上げて執拗(しつよう)に追い回す。その後セスは帰宅した彼女をさらい、自分が働く動物保護センター地下のおりに監禁する。下着1枚でとらわれたホリーの姿を見て、飼い主気分に浸るセスだったが……。
監督 | 園子温 |
評価 | 2.05 |
解説
人気小説家山田悠介の原作で何度も映像化されている題材で、『愛のむきだし』『ヒミズ』などの鬼才・園子温がオリジナル作品として監督を務めた問題作。殺人のターゲットを全国の女子高生とし、女子高生が次々と殺される中、3人のヒロインが阿鼻(あび)叫喚の様相で逃げ惑う姿を描く。出演は、トリンドル玲奈、元AKB48の篠田麻里子、真野恵里菜。過剰でグロテスクな演出と、園監督の手腕により見いだされる女優たちの新たな魅力に注目。
あらすじ
女子高生のミツコ(トリンドル玲奈)は、何者かに追われ、ふと気が付くと学校の教室にたどり着いていた。一方、ケイコ(篠田麻里子)は知らない女性にウエディングドレスに着替えさせられ、何者かに追われる。そして陸上部のいづみ(真野恵里菜)も迫りくる恐怖と対峙(たいじ)することとなり……。
監督 | 永江二朗 |
評価 | 3.40 |
解説
「別冊少年マガジン」連載の原作・山口ミコト、作画・佐藤友生によるコミックを実写映画化。仲のいい高校生グループが友情を試される高額の借金返済ゲームに参加させられ、疑心暗鬼にかられながらクリアを目指すさまを描く。謎のゲームに巻き込まれる高校生を吉沢亮、内田理央、山田裕貴、大倉士門に加え、「虹のコンキスタドール」の根本凪が熱演。『2ちゃんねるの呪い』シリーズなど数々のホラー映画を手掛けてきた永江二朗がメガホンを取る。
あらすじ
クラス全員の修学旅行費200万円が盗まれ、突然“トモダチゲーム”に参加することになった仲の良い高校生5人。彼らのうちの誰かが2,000万円の借金をしており、返済のため友人を巻き込んでゲームに参加していた。ゲームをクリアすれば借金がチャラになるが、できなければ一人400万円ずつ借金を負担しなければならないという。互いの友情が試される頭脳戦が始まるが……。
監督 | フェデ・アルバレス |
評価 | 3.57 |
解説
盲目の老人宅に強盗に入った若者たちが、反撃に遭う恐怖を描くスリラー。リメイク版『死霊のはらわた』などのフェデ・アルバレス監督がメガホンを取り、オリジナル版のサム・ライミ監督と、ライミ監督とタッグを組んできたロブ・タパートがプロデュースを手掛けた。目は見えなくとも研ぎ澄まされた聴覚を持つ老人に『アバター』などのスティーヴン・ラングがふんし、リメイク版『死霊のはらわた』などのジェーン・レヴィ、『プリズナーズ』などのディラン・ミネットらが共演する。
あらすじ
街を出るための資金が必要なロッキーは、恋人マニー、友人アレックスと共に、大金を持っているといううわさの目の見えない老人の家に忍び込む。だが、老人(スティーヴン・ラング)は、驚異的な聴覚を武器に彼らを追い詰める。明かりを消され屋敷に閉じ込められた若者たちは、息を殺して脱出を図るが……。
映画レポート
「Don't Breathe」、すなわち“息もできない”極限状況を描いた全米ヒット作である。ひょっとすると「Don't Please」と勘違いした人もいるかもしれないが、それもまた内容をうまく表している。劇中の登場人物が“やめて、お願い”と言わんばかりに、幾度となく切迫した涙をこぼす恐怖映画だからだ。
舞台はデトロイトのゴーストタウン化した住宅街。孤独な盲目の老人が大金を隠し持っているとの情報を得た若い男女3人が、真夜中に泥棒計画を実行する。その犯罪が破綻していくプロットはいわゆるクライム・スリラーなのだが、幽霊も化け物も出てこない本作がそんじょそこらのホラーよりはるかに怖い理由は、老人の特異なキャラクターにある。目が見えない代わりに鋭い聴覚で侵入者の気配を察知し、身体能力も異常に高い。おまけに心が荒廃した老人の辞書には“良心”とか“慈悲”といった言葉は存在しない。ゆえに捕獲されたら一巻の終わりというギリギリの必死感が全編にみなぎる。
この怪物的な老人のキャラを発明しただけでもお手柄なのだが、地下室がある2階建ての屋敷の空間設計に趣向を凝らしたセット、縦横無尽のカメラワーク、繊細にしてさりげなく奇怪な音響効果が抜群で、作品の総合力の高さに感心せずにいられない。監督のフェデ・アルバレスはサム・ライミに才能を見出され、リメイク版「死霊のはらわた」でとてつもなく残虐かつリアルな人体破損描写に腕をふるった気鋭だが、今回はサスペンスに特化したテクニシャンぶりを発揮。ガラスの破片を踏む音すら心臓に悪い静寂の緊張感を生かし、怒濤のアクション映画に転じる終盤に至っても大味にならない緩急自在の演出に驚かされる。
また、老人のキャラが強烈すぎて見逃しがちだが、屋敷内を逃げまどう若者たちの描写にも手抜かりがない。この手の密室スリラーとしては珍しく“携帯がつながる”というのに、若者たちは老人に殺されかけても警察に通報しようとしない。なぜなら彼らには、命がけの覚悟で大金を手に入れたい理由があるからだ。とりわけジェーン・レヴィ扮する紅一点のヒロインは、何が何でも地獄の屋敷から脱出するためにありったけの機転を利かせ、捨て身の知恵を絞り出す。
そして“息もできない”映画なのだから当然と言えば当然だが、本作にはこのジャンルに付きものの絶叫シーンがほとんどない。その異例の事実ひとつとっても、作り手の野心と自信の程がうかがえる快作である。
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